機能性ディスペプシアについて
慢性的な胃痛や胃もたれ、食欲不振、膨満感などの消化器症状が続きますが、内視鏡で調べても器質的な病変がない状態が「機能性ディスペプシア(functional dyspepsia, FD) 」です。
消化器疾患では、がんなど深刻な病変があってもほとんど自覚症状を起こさないケースもある一方で、FDのように炎症などの器質的な問題がなくても症状が慢性的に続くケースがあります。器質的な問題がないかを調べるのは重要ですが、それがない場合も症状に合わせた治療を行うことで症状の緩和が見込めます。
健康診断受診者の11%〜17%にFDが見つかると言われており、非常にありふれた疾患です。原因不明のこうした症状で長くお悩みの方はお気軽にご相談ください。
機能性ディスペプシアの原因
FDの病態は複雑であり、一つの原因だけで生じているわけではなく、以下のようなことが組み合わさって生じている可能性があります。
胃・十二指腸の運動障害
消化管は蠕動運動によって口から摂取した食べ物を奥に送っています。胃が拡張して食べた物を胃にためる機能(胃適応性弛緩)と胃から十二指腸に排出する機能に問題があると、様々な症状を起こします。胃適応性弛緩の障害は、少量ですぐお腹がいっぱいになってしまう早期飽満感を起こします。胃から十二指腸に排出するタイミングは早過ぎても遅過ぎても問題を起こします。運動機能の障害は、過食、ストレス、不規則な食生活、喫煙・飲酒などがリスク要因となって生じると考えられています。
胃・十二指腸の知覚過敏
知覚過敏とは少ない刺激で症状がでることをいいます。つまり消化管の拡張や十二指腸での胃酸や脂肪に対して刺激を強く感じてしまう状態です。
心理的要因
脳と腸管は密接に関連していることから、ストレスなどによって消化管の運動機能や知覚に変化が生じて症状につながることがあります。また、消化管の機能をコントロールしているのは自律神経であり、ストレスの影響で自律神経の働きが乱れると消化管の機能にも悪影響を及ぼすことがあります。
その他
ヘリコバクター・ピロリ感染(除菌により軽快)、遺伝的要因(生まれつきFDになりやすい)、感染性腸炎(サルモネラ感染)などが発症に関与していることがあります。飲酒や喫煙、不規則な生活など、生活習慣が原因となって症状を起こすこともあります。
胃の形(瀑状胃)がFDと関わっていることがあります。
機能性ディスペプシアの検査・診断
機能性ディスペプシアは問診だけで診断することはできません。機能性ディスペプシアは胃カメラ、超音波検査、ピロリ菌検査、採血(場合によってCT検査)を行っても症状を引き起こす所見がないのにも関わらず、慢性的な胃もたれ、早期飽満感、みぞおちの痛みや灼熱感などの症状を起こす状態です。胃カメラで食道、胃、十二指腸を検査し異常がないか調べます。また、採血でピロリ菌の有無や好酸球増多や炎症がないかを確認します。みぞおちにはさまざまな臓器があり、超音波で胆嚢や胆管、膵臓に異常がないかを調べる必要があります。症状と年齢によっては心電図で心臓に異常がないかを調べる場合もございます。
これらの検査で異常が発見されなかった場合に、機能性ディスペプシアと診断されます。
機能性ディスペプシアの治療
生活習慣の改善
機能性ディスペプシアは精神的、身体的ストレスが原因となることがあります。まずはストレスを取り除き、睡眠をしっかりととり、規則正しい生活をすることが基本となります。また、暴飲暴食や高カロリー脂肪食なども原因となります。薬物治療に加えて、生活習慣の改善も重要な治療の一つとなります。
薬物療法
先に記載した胃適応性弛緩の異常や胃から十二指腸への排出の異常が疑われる場合には消化管運動機能改善薬「アコチアミド」を使用します。また、胃酸が分泌されることで痛みや吐き気が生じる場合、胃酸分泌を抑える薬を処方します。また、十分なエビデンスはないのですが、漢方も症状緩和に使用されることがあります。
ストレスや不安、知覚過敏でFDが生じている場合には抗不安薬や抗うつ薬を使用することがありますが、治療には難渋することも多く、心療内科や精神科と協力して治療を行なっていくことも少なくありません。